全日本仏教会が「暴力団排除」に取り組む理由

2012年1月号 DEEP [ディープ・インサイド]

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暴力団排除条例が全国で施行されたが、伝統仏教教団の連合体である全日本仏教会(全仏)も12月1日、東京都港区で理事会を開き、暴力団拒否の方針を改めて確認した。出席者によると、理事会にわざわざ警察庁の暴力団対策担当者を招き、マル暴のやり口などについて詳しい説明を受けたという。同会が真面目に「暴排」に取り組むには理由がある。

全仏は1976年5月、三重県で開いた全日本仏教徒会議で「威力誇示や資金集めに利用される恐れのある法要、葬儀等は拒否しよう」との決議を行い、30年後の07年3月にも理事長名で同様の声明を出している。今回の理事会は76年の決議を再確認し、これを加盟団体に周知徹底するために行われた。暴力団排除で、各界に強い態度で臨む警察に忠実な姿勢を見せたわけだが、背景にはやくざと寺との密接な関係、特に日本仏教の母山とされる比叡山延暦寺での山口組歴代組長法要の実施がある。

06年4月21日に法要は開かれ、全国の直系組長ら約100人が集まった。滋賀県警は事前に中止を要請したが、延暦寺サイドは「宗教上の行事」を理由に強行。当時の報道によると、香典名目で数千万円が上納された。全仏から暴力団の法要を行わないなどの理事長声明が出た直後だけに、延暦寺に対する批判が高まり、代表役員が引責辞任する事態を招いた。今回の全仏理事会後に開かれた記者会見でも、延暦寺での一件を「残念なこと」の一例として、わざわざ言及したという。とはいえ、暴力団関係者には神仏に篤い信仰を寄せる者が少なくない。延暦寺ではかつて、一部僧侶と暴力団幹部との密接な交際が取り沙汰されたこともあるが、それとて氷山の一角に過ぎない。

「信教の自由」は保障され、宗教者が「悩める者を救う」のは当然の務め。全仏会見では「弔いと義理かけは別」とし、葬儀は丁寧に行うと説明したようだが、信仰の視点が欠けている。「義理かけ」は問題外だが、「弔い」だけが寺の仕事ではないはずだ。

   

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