「米ナスダック、ロンドン、東京のいずれか、或いは3市場同時上場を検討しているが……」と内情を明かす。
2024年11月号 BUSINESS
ソフトバンクの宮川潤一社長(写真/宮嶋巌)
スマートフォン決済国内最大手、PayPay(ペイペイ)の上場時期に市場関係者の注目が集まっている。関係筋は「日米英の3市場で同時上場も選択肢」と驚きの計画を明かす一方、「今は上場する環境ではない」と厳しい表情で語る。親会社のソフトバンクの宮川潤一社長も上場を急かす考えはないと表明している。どんな事情があるのか。
2018年に孫正義氏の肝いりで設立されたペイペイは、巨費を投じたキャンペーンが奏功し、利用者6500万人を超えた。直近では給与のデジタルマネー支払いを厚生労働省から唯一認められ、新興金融企業(フィンテック)の雄だ。
「急いで資金調達する必要はない。成長してから大きなIPOをしてもらったほうが先の計画を組み立てやすい」
宮川氏は8月のソフトバンクの決算会見でこう語った。四半期ベースで初めて営業黒字化を達成したことを明らかにした会見での発言が注目されたが、肩透かしを食らったかっこうだ。
内情を知る金融関係者は、ペイペイが米国の新興企業中心のナスダック市場、新規上場を増やすために規制緩和した英国のロンドン市場、そして東京市場のいずれか、或いは3市場同時の上場を検討していることを明かす。その一方で「すぐではない」と強調。その理由について「フィンテック企業で順調に収益を上げているのは、各国で皆無だから、先を急がない」と説明する。
即ち目下、経営が苦しい国内フィンテックの一例として、個人の金融資産を一元管理できる家計簿アプリを提供するマネーフォワードやマネーツリーの名前を挙げる。実際、マネーフォワードは、三井住友カードと資本業務提携するなど、単独での事業展開の厳しさが窺える。マネーツリーについては身売り先を探しているとの噂が囁かれるほどの有り様だという。
つまり、ぺイペイと同業か類似のフィンテック企業が、世界的に苦戦している状況下で、仮に3市場同時上場したとしても、企図する資金調達は見込めないと判断しているわけだ。
一方で「ペイペイ1強」の座を脅かす勢力もある。VISAなどクレジットカード大手が、クレカやスマホをかざすだけで支払いが完了するタッチ決済の普及に向け、巨費を投じたポイント還元キャンペーンを展開しているからだ。決済の手軽さという意味では、QRコードやバーコードをかざすペイペイと殆ど変わらないため、キャンペーン費用の大きさが、スマホ決済サービス市場のシェア拡大に直結する。
ペイペイもQRコード決済だけに注力しているわけではない。子会社がタッチ決済対応のクレジットカードを発行しており、6月末の有効会員数は1200万人に達した。8月には1人当たり最大4枚まで発行可能とするなど、さらに発行枚数を増やす方針だ。
クレカの一度の決済額はQR決済より大きく、支払総額も大きくなりやすい。手数料が直接、収益につながるリボ払いや分割払いに誘引しやすいクレカが、ペイペイの収益の柱に育ちつつあるのだ。
全国津々浦々でQR決済を可能にしたペイペイの稼ぎが、旧来のクレカの手数料に移行するのは情けないハナシだが、営業黒字を拡大し大型IPOを実現するための早道に違いない。