石破首相より原発活用に前向きな玉木代表が、日本におけるAI革命の進展をも左右する存在に!
2024年12月号 BUSINESS
政党支持率も急上昇!(写真は国民民主党HPより)
アマゾン、グーグル、マイクロソフトなど米国の巨大テック企業が雪崩をうって原子力発電所の活用に動いている。データセンターと生成AI(人工知能)の普及で爆発的に増加する電力需要を賄わねばならないからだ。
火力発電所は温暖化ガスを排出するために選択肢から外れ、再生可能エネルギーは存在感こそ増しているが依然として力不足。24時間稼働の新たな脱炭素電源を渇望する巨大テックは発電時に二酸化炭素が発生しない原発を選んだ。
Xエナジーの原子炉(HPより)
9月20日、米電力大手のコンステレーション・エナジーは運転停止しているスリーマイル島原発1号機(ペンシルベニア州)を再稼働させると発表した。同原発の2号機は米国史上最悪の原発事故を起こし1979年に閉鎖された。1号機も採算悪化を理由に2019年に運転を停止したが、コンステレーションは規制当局の認可を経て28年までに現役復帰させる。起こした電気は全量をマイクロソフトが20年間引き取り、データセンターの専用電源に使う。ただし、かつて大事故を起こした2号機は再稼働の対象外だ。
10月16日、米アマゾン・ドット・コムは小型原子力発電に5億ドル(約750億円)超を投資すると発表した。出資先は次世代原発「小型モジュール炉(SMR)」を開発する米新興企業Xエナジー。今後数年で100万キロワット(kW)単位の電力が必要になり、風力や太陽光の発電では足りないと説明し、2039年までに米国でSMRの発電能力を500万kW以上に増やすとの目標を明らかにした。
XエナジーのSMRは1基の発電能力が8万kWで、100万kW級の従来型原発に比べて小さい。設置しやすさや建設費の安さ、需要に応じて拡張が容易といった利点がある。高温ガス炉がベースで、「TRISO燃料」を使う。
ウラン、炭素、酸素の小さな粒子を炭素とセラミックからなる3重の保護層で封じ込めたのが「TRISO燃料」だ。それぞれの粒子はゴルフボール大の黒鉛の中に埋め込んである。この形状を採用すると各粒子が格納容器システムの役割を果たすようになる。腐食や酸化、溶融に高い耐性を持ち、低コストで安全なシステムが構築できる。
米グーグルは10月14日、SMR開発を手がける米新興企業、カイロス・パワーと電力の購買契約を結んだと発表した。カイロスはフッ素、リチウム、ベリリウムを含む溶融塩で取り込んだ熱を蒸気タービンに送り発電する。水を使う現在の軽水炉よりも構造がシンプルでコストも安い。Xエナジーと同様にカイロスも「TRISO燃料」を使用する。
グーグルはカイロスから電力を購入する。まず30年までにSMRを稼働させ、35年までに追加配備して段階的に発電量を増やす。今回の契約では50万kW分の電力供給を見込む。グーグルが7月に公表した年次環境報告書によれば気候変動につながる温暖化ガスの排出量が19年比で約5割増えた。業容拡大で温暖化ガスの増加を抑えられない窮状が表面化した。
米オラクルは現在、世界中で162のクラウドデータセンターを運用または建設中だ。最大のものは80万kWの発電能力を持ち、NVIDIAのGPUクラスター群を擁するAI事業の拠点となる。
さらに創業者のラリー・エリソン会長は「SMR3基で電力を供給し、100万kW以上の発電能力を備えたデータセンターを建設する」と直近の四半期決算説明会で明らかにした。すでにSMR3基の建設許可を取得したという。100万kW級の電源を確保すれば最先端のAIモデルの訓練や大規模なデータ処理に必要な膨大な計算リソースが提供できる。
SMRは従来型の原子炉に比べて出力が小さく、安全性が優れていると期待される。現時点では商業運転中のSMRは存在せず、パイロットプロジェクトも順調とは言えない状況だが、アマゾンやグーグル、オラクルのような巨大企業が長期的に開発を後押しすれば、実用化への道が開ける。米調査会社のポラリス・マーケット・リサーチによると、SMRの市場規模は2030年に130億ドル(約1兆8000億円)に達するとみられる。
米国政府も後押しを惜しまない。バイデン政権は国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で「2050年までに原子力エネルギー容量を3倍に引き上げる」という多国間宣言にコミットした。米議会は今年6月にSMRなど先進炉開発を加速するための「アドバンス法(クリーンエネルギーの多用途かつ先進的な原子力展開の加速化法)」を可決した。米原子力規制委員会(NRC)の許認可手続きを簡素化し、最初に開発に着手する事業者に賞を与えるなど先進炉開発へのインセンティブを設ける。
翻って日本である。東北電力が東日本大震災で停止した女川原子力発電所(宮城県女川町・石巻市)の2号機(出力82万5000kW)を10月29日午後7時に起動し、13年ぶりに再稼働させた。震災で事故が起きた東京電力福島第1原発と同じ方式の沸騰水型軽水炉(BWR)だ。
ところが11月3日、発電再開に向けた試験で原子炉内に挿入した検査機器が動かなくなり、手動で引き抜くトラブルが発生。4日に原子炉を停止した。12月には中国電力が同じくBWRの島根原発(松江市)2号機(出力82万kW)の再稼働を予定しており、女川2号機のトラブルによる影響も懸念される。
米巨大テックは原発を生成AIやデータセンターの膨大な電力需要を支える基幹電源として位置づけた。片や日本は既設原発の再稼働が精一杯で、それすら危うい。次世代原発など夢のまた夢である。
国際エネルギー機関(IEA)によると、AIやデータセンターなどによる世界の電力需要は2026年に最大で1050テラ(テラは1兆)ワット時と22年比で2・3倍に拡大する。日本の発電インフラが不足しているのは明らかだ。
衆院選で大躍進した立憲民主党の野田佳彦代表は「原発の新増設は認めない」スタンスを変えない。日本のAI開発にさらなる暗雲が垂れ込めたかに思えるが、捨てる神あれば拾う神あり。原発活用に前向きな国民民主党である。
電力会社などの労組である電力総連の組織内議員を抱える国民民主は衆院選の公約で「原発の建て替え・新増設により、輸入に頼らない安価で安定的なエネルギーを確保」と掲げた。玉木雄一郎代表は「当面は原子力の最大限活用が不可欠だ」と話す。
少数与党転落の危機に直面する自民党は国民民主を取り込むために、玉木氏の主張を丸呑みする公算が大きい。9月の自民党総裁選で「原発ゼロに向け最大限努力する」との考えを示した石破茂首相の考え方よりも踏み込んだ内容が、2024年度末までに作成する「エネルギー基本計画」に反映されるだろう。
直近のTBS・JNN世論調査(11月3日)によれば、自民党の政党支持率が前月の調査から9・3ポイント下落して24・6%、立憲民主党は1・1ポイント上昇し、12・8%、国民民主党は7・6ポイント上場し、9・1%だった。伸び率で国民民主は立憲をはるかに上回る。国民の総意は立憲民主に代表されるリベラル一辺倒ではない。かつては言葉遊びレベルだった「タマキノミクス」の実現性が増す。政局のキャスティングボートを握った国民民主は、日本におけるAI革命の進展をも左右する存在となった。