二つの「生命維持装置」/公明・国民「バラマキ」実現コンビ

首相は心労が重なり「生気がない」。今後は自民議席数の3割に満たない公明と国民が、政権与党を振り回す展開になる。

2024年12月号 POLITICS

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生気がない石破首相(写真/堀田喬)

自民党が衆院選の敗戦から立ち直れないでいる。石破茂首相は自身の続投にはなんとかこぎつけたものの、反転攻勢に打つ手はなし。公明党と国民民主党という2つの「生命維持装置」がなければ政権維持はおぼつかない。待っているのは来年の参院選を意識した「バラマキ」施策だ。

「今回の選挙において多くのわが党の同志が議席を失うことになった。誠に痛恨の極みだ」

11月7日の自民党本部901号室。首相は選挙総括の場となった両院議員懇談会で約200人の所属議員を前に敗戦の弁を口にした。会合は予定時間を大きく超す3時間。多くの議員から執行部を突き上げる声が相次いだ。

そんななかで一人、別目線で持論を展開した議員がいた。衆院当選14回の船田元氏だ。

「30年前に少数与党の厳しさを経験した。いかに国会運営が大変になるかを理解してほしい」

「国民民主との協議がカギを握る。できれば連立がいいが、閣外協力くらいまでは進めてほしい。できるだけ一致できるように努力してほしい」

「石破総裁の責任は少数与党でありながら国民生活を守る体制をつくることだ」

カギを握る「西田と榛葉」

公明党の西田幹事長(写真/宮嶋巖)

小沢一郎氏らと1993年に自民党を離党した船田氏は、新生党に参加し、細川護熙内閣を引き継ぐ形で94年に発足した羽田孜内閣を支えた。首相指名の直後に新会派の結成をめぐって反発した社会党が連立政権を離脱し、少数与党内閣になった。

羽田氏の首相在任期間は64日で、戦後2番目の短命内閣という不名誉な記録を残した。船田氏の言は今回も同じことが起きかねないとの警鐘だ。そして船田氏とともに羽田氏を支えた一人がほかならぬ石破氏自身である。「船田氏の発言は首相の意思を代弁したものだ」と党関係者の一人はみる。

衆院選を受けて国民民主は自民党の生命維持装置になったといっても過言ではない。「対決より解決」を標榜し、議席数を公示前から4倍の28議席に増やした。自民、公明両党の議席数(215)に国民民主の数字を足せば過半数(233)に届く計算となる。

玉木雄一郎代表は所得税がかかる年収の最低ラインを103万円から178万円に引き上げるよう求めている。「手取りを増やす」とした衆院選公約のなかで最もこだわってきた政策だ。ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の復活も訴える。

政権に加わらなくても実をとれれば勢力拡大が見込めるとの読みがある。来年の参院選に向け「成果」を示す必要がある。安易に妥協すれば一気に支持を失う恐れもあり、現時点では強気の主張を繰り返す。

特別国会召集に合わせるかのように飛び出した「スキャンダル」はどうにかかわすことができそうだ。週刊誌に元グラビアアイドルとの不倫デートを報じられたものの、玉木氏は記者会見して事実を認め、涙ながらに謝罪した。現時点で党内に代表交代を求める声はない。絶体絶命のピンチを乗り切る可能性が出てきている。

自民党にとってもう1つの生命維持装置、公明党も強気の主張を繰り返すという立場では国民民主と似る。衆院選では改選前から8議席減の24議席にとどまった。代表に就いたばかりの石井啓一代表が落選した。斉藤鉄夫代表のもとで党再生を目指すものの、支持母体である創価学会の集票力低下も相まって党勢拡大は容易ではない。局面打開には実をあげることが不可欠となる。

10月に終了した電気・ガス代の補助再開を主張するのはその一例だ。年末までのガソリン代補助の継続も求める。衆院選の公約では低所得者世帯向けの給付金支給を盛り込み、石井氏は「1世帯10万円が目安になる」と言及した。

政権基盤が弱い自民党はこうした「友党」の声に配慮せざるを得なくなる。もともと優柔不断で明確な方針を発しない首相のもとにあってはなおさらだ。今後は自民党と比べて議席数が3割に満たない公明党と国民民主が、自民党を振り回す展開となる。いきおい政策面では参院選を意識したバラマキ施策が横行することになる。

すでに公明、国民民主は連携を強めている。両党の政調会長は政策協議をスタートさせ、公明党の岡本三成政調会長は「103万円の壁」の見直しについて「基本的なベクトルや大きな考え方は近い」と歩調を合わせた。国民民主の議員は「公明を味方にするのが政策実現の近道」と語る。

連携のカギを握るのは西田実仁、榛葉賀津也の両幹事長とみられている。ともに参院議員でかねて国会運営で気脈を通じてきた。榛葉氏の選挙を支援してきた創価学会の佐藤浩副会長がその仲立ちとされる。学会幹部は「これからは国民民主とともに、自民党に要求を突きつけて、成果を勝ち取る場面が増えてくる」と解説する。

「森山幹事長」続投も火種

国民民主党の榛葉幹事長(HPより)

自民党に対抗できる手段は皆無といっていいだろう。そもそも首相のもとで調整力を発揮できる側近議員が見当たらない。自称側近の赤沢亮正経済財政政策相はしきりに官邸を訪れて調整業務に関与しようとするものの、官邸内からは「屋上屋を架すようなもの」と疎まれている。四半世紀前の自自公連立の実現に際し、官房長官だった野中広務氏が奔走したのとは対照的といえる。

あえていえば森山裕幹事長が調整役の中心人物と言えるが、森山氏の求心力もまた乏しい。衆院選期間中に自民党が非公認候補者の党支部に2000万円を支給したことを巡っての不満の声がくすぶっているためだ。政権の存続をめぐって石破首相が森山氏の続投を決めたこともまた党内の火種となっている。

今後の焦点は石破政権がどこまで存続できるかに移る。来年の参院選は今後の政治情勢を決定づける天王山になる。自民党幹部は「このまま自民党の支持率が低下を続ければ、参院側から『石破おろし』の声が高まる可能性が高い」と見通す。改選を迎える自民党参院議員の一人は「石破さんに代わって誰だったら勝てるかを様子見しないといけない」と語る。

首相は9日、都内の病院を訪れて1時間50分にわたり健康診断を受けた。周辺は「風邪気味だったため念のため受診した」と説明するが、同時に心労も重なっていると打ち明ける。

官邸で面会したある官僚は「首相には生気がなかった」と口にした。首相は少数与党の悲哀を味わい続けることになる。

   

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